鹿児島地方裁判所 昭和58年(ワ)112号 判決 1983年12月27日
鹿児島市<以下省略>
原告
X
右訴訟代理人弁護士
井之脇寿一
宮崎市<以下省略>
被告
株式会社エイショウ
右代表者代表取締役
Y1
宮崎県宮崎郡<以下省略>
被告
Y1
主文
一 被告らは、原告に対し、各自三九六万円及びこれに対する被告株式会社エイショウについては昭和五八年四月一四日から、被告Y1については同年三月一二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文と同旨。
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
(一) 被告株式会社エイショウ(以下「被告会社」という)は、海外商品先物取引受託業務、金地金の売買取引ならびに販売等を目的として昭和五五年七月一七日設立された。被告Y1は同社の代表取締役である。
(二) 原告は、被告会社の違法、無効なプラチナ地金の「現物条件付保証取引」に勧誘され、予約金名下に金員を出捐させられた被害者である。
2 不法行為
原告が被告会社との間になしたプラチナ地金「現物条件付保証取引」(以下「本件取引」という)は、次のとおり被告らの不法行為によるものである。
(一) 重要事項の告知義務違反
日本においては原告を含む一般人にとってプラチナ、金地金について基礎知識がなく、プラチナ、金の価格は国際政治、経済、社会、通貨の状況など種々の要因により決定されるのに、その正確な情報が十分でなく、加えて公認の市場もなくその売買方法が未だ確立していない。従って被告らは本件取引をなすに際し次の重要事項を明確に告知する義務があるのに、これを尽さなかった。
(1) 日本においては公認の市場がなく、本件取引なるものは私設市場を媒体とする先物の相場取引であって、投機性を有すること、相場取引の仕組、特に価格の決定方法
(2) 取引の単位が一キログラムであり、被告会社は委託者に対し高額の保証金を預託させるのであるから、被告会社の保証金の返還能力の有無ならびに財産状態
(3) 価格の変動により、また売・買建に評価損を生じたときは追加保証金を納入する義務を負うこと等、本件取引に関する基本的、本質的事項
(二) 積極的詐欺勧誘
日本には公認市場がないのに被告会社は「中央貴金属市場取引員」を名乗り、あたかも公認市場であるかの如く詐称し、相場取引であるのに必ず儲かるといって現物取引になぞらえた「現物条件付保証取引」と称していた。このような方法で取引に引きずり込むのは詐欺そのものである。
(三) 公序良俗違反
本件取引は、中央貴金属市場と称する私設の市場を土台にするものであるが、その市場たるや、地金の相場につきその需要と供給によって自由かつ公正に形成される市場である保証は全くない。さらに前記のとおり該市場を媒体とする取引につき、被告会社から顧客に対し重要事項が告知されていないばかりか、右市場に加入する被告会社が委託者の買、売注文を市場に取次ぐに際し、プラチナ地金の数量、取引額の大きさからみてその財産的基礎が脆弱で取引から生ずる責任を担保する保障もなく、しかもその人的構成からみて業務を公正かつ的確に遂行し得る知識、経験を持たず、また社会的信用もなく、その取引方法については「現物条件付」なる名称を用いているが、その実体は先物取引である。被告会社のような組織体が日本各地において莫大な被害を蒙らせており、このような法人を組織し、大衆の無知に乗じて金を捲きあげるための手段として本件取引のような行為を実行することは、極めて強い違法性を有するものである。
(四) 商品取引所法八条違反
本件取引は、現物条件付保証取引名下に行なわれたようであるが、その実体はいずれも先物取引である。従って本件取引は、プラチナ地金が商品取引所法二条二項に基づく政令の指定を受けた商品ではなかったので、同法八条に違反する違法なものである。けだし同法は、先物取引が投機性を有することから、委託者保護の見地に立って、厳格な規制と監督の下に、右政令で指定された商品に限って先物取引を許容し、他の商品については、先物取引を行うことを一切禁止しているものと解すべきだからである。
3 責任
右のとおり違法な本件取引を行なえば、原告に対し損害を発生させると知りながら、あえて、
(一) 被告会社は、鹿児島支店の支店長代理A、営業部員Bを通じて原告に甘言、虚偽の言説を申し向けて、原告を本件取引に勧誘し、
(二) 被告Y1は被告会社の代表取締役として右違法な業務を企画、立案、実施して原告を本件取引に勧誘して、
原告に損害を蒙らせたものであるから、いずれも民法七〇九条の故意にもとづく不法行為責任がある。
4 損害
(一) 被告らの不法行為により、原告は昭和五七年一〇月一八日金六〇万円、同月二一日金八五万円、同月二九日金二一五万円合計金三六〇万円を予約金名下に出捐させられ、未だその返還を受けていない。
(二) 本件訴訟を遂行するために弁護士に委任しなければならず、弁護士費用として前号の被害金額の一割相当額金三六万円が本件不法行為と相当因果関係のある損害である。
5 よって、原告は被告らに対し、被告らの不法行為によって蒙った損害金三九六万円とこれに対する不法行為の後である被告会社については昭和五八年四月一四日から、被告Y1については同年三月一二日から各完済まで民法所定年五分の割合による損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の(一)は認め、(二)は否認する。
2 同2は否認する。
3 同3は否認する。
4 同4のうち原告が予約金を出捐したかは知らない、その余は否認する。
5 同5は争う。
第三証拠
本件記録中「書証目録」及び「証人等目録」の記載を引用する。
理由
一 請求の原因1の(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲一号証の1ないし3、二号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を斟酌すると、株式会社中央貴金属市場の取引員と称する被告会社の鹿児島支店長代理A及び営業部員Bは、昭和五七年一〇月ころ、原告に対し、現物条件付保証取引の名のもとに、その実態が商品取引所法二条四項にいう先物取引である本件取引を勧誘してこれを締結させ、同月一八日六〇万円、同月二一日八五万円、同月二九日二一五万円の合計三六〇万円を出捐させたことが認められる。
ところで、右市場におけるプラチナ地金の先物取引の実態や被告会社による買付の有無等については不明な点もあるが、そもそも右のような本件取引が商品取引所法八条に違反する違法な先物取引であると解されるのみならず、本件取引の勧誘の態様自体も、原告本人尋問の結果によると、A支店長代理らは、女性の一人住いである原告方に強引に上り込み、看護婦の職にあってもともと先物取引についての知識のない原告に対し、先物取引の投機性や危険性については一切説明せず、「必ず儲る。」などと利益が確実であることを前提とし専らその射倖心を煽りながら長時間にわたり執拗に働きかけるなどし、その結果、右執拗な勧誘を断り切れず困惑の念を募らせ、その一方で利益が確実であると思い込むなど、冷静な判断のできない状況のもとに原告を陥らせ本件取引をさせて三六〇万円を出捐させ同額の損害を蒙らせるに至ったというものであって、社会的にみて著しく不公正で違法な勧誘態様といわざるを得ない。
以上からすると、A支店長代理ら二名は、原告に対し、共同不法行為者としての責任を負うべきものと認められるところ、被告会社の代表取締役である被告Y1においては、その立場上A支店長代理らの共同加功者としての責任を免れず、被告会社においても、被告Y1が不法行為責任を負う以上同様の責任を負担することは明らかである。
また、本件事案の性質、認容額等に照らし、被告らに賠償を求め得る弁護士費用は三六万円が相当である。
三 よって、原告の本訴請求は理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 平井慶一)